ある朝、知らないチャラ男が家の中にいた話

10.3.17

 6年くらい前のことだと思います。

 実家に戻って暮らしていて、休日の朝、部屋着を着たまま何の気を使うこともなく、茶の間の方に行くと、見知らぬチャラそうな男が家の中にいました。

 肌が浅黒くて、髪を染めていて、作業着姿ですが、確か黒ずくめでお洒落な感じです。

 うちの母親を口説いているかのようなチャラい口調です。

 よく見ると私よりは明らかに年上そうな感じで、どちらかといえば母の年齢に近そうです。

 チャラいけど地元の訛りは抜けていないようです。

 「この最高級品のだと~、米とかも~、たげる(炊けるが訛ってる)んで~。」

 なにやらパンフレットのようなものを母に見せながら喋っています。

 ああ、そういえば最近ガスコンロの調子が悪いって言ってたような気がするなと思い出しました。

 このチャラ男のことはよく知りませんが、地元で長年ガス器具を営んでいるところの従業員のようです。

 記憶が曖昧ですが、そこの経営者の息子さんだったかもしれません。

 もしかすると、元々住んでるところが母の地元であるため、店も近所なので昔からの知り合いなのかもしれません。

 「一括だと、しんどいっしょ?月賦とかもできるんで~。毎月、俺が取りにぐっから~(取りに来る)。」

 このチャラ男は胡散臭いけど、会社の方には長年の付き合いがありますから最高級品と言っても法外な値段で販売している訳ではなさそうです。

 その時は米が炊けるという最高級ではなく、その次のグレード(おそらく普通の並くらい)のに決めたようです。

 しかも、それなら在庫が店にあるからすぐ取り付けられるということでした。

 記憶が曖昧ですが、ガスコンロ自体はすぐに取り付けることができて、使用することもできました。

 しかし、前に使っていたガスコンロの不調は長年使ってきて劣化してきたのが原因のようですが、それだけでなくガスに使っているホースが相当痛んでいて、すぐにでも交換したほうがいいということでした。

 新しいガスコンロは使えますが、ホースも取り替えた方がいいということになり、しかし家のホースの長さが規格に合うものがなくて「特別仕様なんで~」ってことで取替え作業は後日になるということでした。

 そして、次の私の休日の時、平日なので私以外の家族は職場に出かけていて、家で一人で過ごしていました。

 もしかしたらホースの交換に来るかもしれないと聞いていました。

 午前中に、そのチャラ男がやってきて、手際良くホースを取り替えていきました。

 その時は特にチャラい口調でもなく、そもそもそんなに言葉を交わしませんでした。

 その後は特に会う理由もなく、おそらく月賦の支払いを回収に来たりはしてたんでしょうが、私が見ることはありませんでした。

 ホースの交換自体は特に何か思うことはないのですが、それは3月11日のことでした。

 その日の午後、東日本大震災がありました。

  自分のいる地方では、揺れ自体はそこまで大きくはありませんでしたが、長く揺れたのは地震に遭遇した方は覚えていると思います。

 ホースの交換があとになっていれば、ガスのトラブルもあったかもしれませんし、そのチャラい男の人が少し遅く作業に訪れていれば一緒に家の中で地震に遭遇したかもしれません。

 あれから6年経ったんだと思うと、体感的には10年以上も前の出来事のようにも感じられますが、まだまだ被災地の復興まで至らないことや被災者の方の気持ちを思うと忘れてはいけない、風化させてはいけないというのは今でも大事なことだと思います。

 実際、自分自身は無事ではあったけれど、当時の主に仕事関係のお客さんが何人も亡くなったり、被災者の方と接する機会が何度もありました。

 そのためか、被害が少なかった地域で暮らしている割には精神的なショックを受けたというか、今も受けていると思うことがたまにあります。

 たまに自分で思っているよりもずっと深く傷ついていたのではないかと気が付くような時もあります。

 やっぱり人生観に影響がある出来事だったと思います。

 自分が本当にしたいことは何なのか、後悔しないように生きるためにはどうすればいいか、そんなようなことも考えたりしたと思います。

 震災の関連で今回はまだ書けないと思うこともあるのですが(亡くなった方や自分のことが特定される可能性があるという意味もあります)、いずれ気楽に周囲の人にでも話せるような時がくればいいなと思っています。

 まあ、無理矢理チャラ男の生き方に結び付けて考えるとするならば、チャラい人も人生に後悔しないようにそうした生き方を選択して生きているのだとすれば、それなりに有意義なことなのかもしれません。

 亡くなった方の分まで生きようと考えるのは結構重たいテーマかもしれませんが、それは自分だけではなく、震災に遭った方やそれ以外の地域の方、もっといえば日本人の全体が漠然と無意識に心の中で思っていることなのかもしれません。

 こういったことには正解はないものですが、自分なりに向き合って考えることが大事なことだと思います。

 

 

 

 

 

 

 


 
 


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